2015-07-22

それは関係ありません――本日の「夏休み子ども科学電話相談」 2015/07/22

今年もはじまりました、NHKラジオ第1放送の「夏休み子ども科学電話相談」。わたしがこの時期、平日が休みならばかかさず聴いているこの番組は、その分野の超一流の先生方が、子供たちの素朴だったり奇想天外だったりする質問に、ときに振り回され、ときに知識が暴走して子供を置き去りにしつつ、真っ向勝負で臨むスリル満点の番組だ。これに勝る夏の娯楽なし(断言)。
ということで、本日の放送の私的ハイライトを。とはいえ、うっかりしていてはじめの2時間を聴きのがしてしまった。不覚。ともかく、聴いたところからはじめましょう。
(子供たち、先生たちの発言は、そのとき取っていたメモ及び記憶を元に要約・再構成したものであり、放送そのままの採録ではないことをお断り申し上げます)


質問 「星の中で、金星が特によく光るのはなぜですか?」

本日の宇宙先生は、国立天文台副台長の渡部 潤一先生。

渡部先生はまず「金星が地球に近いから。たとえば同じ明るさでも、近いほうがより明るく感じられる。それと大きさ。火星も地球に近いけど、小さいから金星ほど明るくならない」と説明して、

渡部先生 「惑星知ってる?」
質問者 「すいきんちかもくどてんかいめい」
渡部先生 「よく知ってるね。……最後の冥王星は、先生が惑星じゃなくしちゃったんだけど(笑)

渡部先生は「惑星の定義委員会」委員として、冥王星の惑星からの除外を決定したメンバーのひとりなのだ。三つめの理由は、「金星は反射率の高い白い雲で覆われていて、太陽の光をよく反射するから」。ちなみにこの雲は硫酸で、金星には硫酸の雨が降っているとか。「そこまで行ったら、人間の体は溶けちゃいます」だそうです。


質問  「芝生に花が咲くのを見たことがないけど、どうやって増えるんですか?」

本日の植物先生は、甲南大学教授 田中 修先生。

「芝生にも花は咲くんです。でも芝刈りで蕾が刈られてしまうので、咲くまでいかないの。それと、芝生はイネ科の植物で、お米と近い種類。お米の花て見たことある? お米や芝生の花は、虫をアテにしてないの。花粉は風に運んでもらう。きれいな花びらで虫に目立つようにする必要がないから、花びらがなくて、地味な花。たとえ咲いていても、観察されることは少ないのね」

と説明、そのあと

「花が咲かないと種ができないのに、じゃあどうやって増えるのか、いうたら、芝生は地下茎という地面の下に這うように伸びる茎で増えます。地下茎。『地下茎』て覚えといて~」

出た! 田中先生の「覚えといて~」! おさなごを相手に容赦なく専門用語リピートアフターミー! これを楽しみにしている人は少なくないはずだ! 例: 「連作障害ていうてみて~」
田中先生のおかげで、わたくし「ジベレリン」と「モモルデシン」は一生忘れません。この番組をたのしく聴いている大きいおともだちはみんなそうだと思います。

「地下茎で増える植物は、いったん生えたら取り除くのがやっかい。もし花咲かせて種が飛び散って、お隣の家に芝が生えたらたいへん。怒ってきはる人もいるよ。花咲かさんといてくださいいうて」

さすが田中先生、ご近所トラブルに発展する可能性にまで言及。後ろのほうではほかの先生方の笑い声が。


質問 「 セミの幼虫が土の中にいる間に、地面がコンクリートで固められたらどうなりますか?」

本日の昆虫先生は足立区生物園 昆虫飼育担当 清水 聡司先生。

しゅんたくん 「セミの幼虫が7年土の中にいるあいだにコンクリートはったりおうちが建ったりしたらどうなっちゃうんですか」
清水先生 「ズバリそのまま死んじゃいますね

ああ無情、というか無常……答えをきいてしょんぼりしてしまったしゅんたくん、優しいええ子や。ズバリとホントのことを答えたけど、それまでにやっぱり少し躊躇いの色が見えた清水先生も、優しい。

清水先生 「ぜんぶコンクリートで覆っちゃった? どっかに木と土は残ってない?」
しゅんたくん 「あ、柿の木が一本残ってる!」

しゅんたくん! よかったな、しゅんたくん! セミ、きっと生きてるよ!


とまあ、いろいろ盛りだくさんなわけですが、本日の最高峰、それは間違いなく田中先生。

質問 「蓮の葉っぱの上で水滴が転がるのはなぜですか?」

しずかちゃん 「蓮の葉っぱの上の水が丸くなってころころするのはなぜですか?」
田中先生「蓮の葉っぱの上に水が転がるから、つるつるしてるように思えるけど、あれつるつると違うんです。実はあれ、ざらざらしてるんです。葉っぱの表面に小さいつぶつぶがいっぱいあって、それで葉っぱに水がくっつかなくなってるの」

ふむふむ。あの「目玉焼きが滑るフライパン」 みたいなもんか。と、ここまではよかった。しかしおたのしみはこれからなのさ!

田中先生 「蓮は英語で『ロータス』っていってね、このくっつかなくなることを、『ロータス効果』っていいます。『ロータス効果』って覚えといて~、『ロータス効果』。 あのね、ご飯がこびりつかないしゃもじってあるでしょ? あのこびりつかないしゃもじは、表面につぶつぶがあるのね」


お、それがその!?と思わせておいて、

田中先生 「それはロータス効果とは関係ありません」

って先生!!先生!! 後ろでほかの先生方大爆笑。

田中先生 「そのつぶつぶの表面に、さらに小さいつぶつぶがあって、それがロータス効果を応用してるの」

おお! これは見事。「関係ないんかーい!」とツッコませる方向に持っていって、スッと核心に触れる。これで絶対忘れない。先生ご自身がどこまでその効果を狙っておられるかはまったくの未知数であるが、それでもわたしは「ロータス効果」を完璧に覚えた。もうたぶん一生忘れない。最終的に「そうなんですか」としかいわなくなったしずかちゃんが覚えたかどうかは知らんが。そして覚えてどうなるのかも知らんが。

だがそのあとも田中先生は止まることなく走り続ける!

田中先生 「ヨーグルトのふたね、あれも昔はふた開けたらヨーグルトがべたーとくっついてたもんやけど、最近はふたにつかなくなってるの。それも、ロータス効果を応用した技術で」

先生! しずかちゃんが置いてきぼりになってます!


そして、わたしは聴きのがしたのだけど、たぶん本日の放送で一番話題を提供したであろう質問を、某呟き処のハッシュタグをさかのぼってて見つけた。

質問 「ねこに話しかけると、ねこにはニャーって聞こえるんですか?」

ああ、ほんとうにいい質問だなあ。理系は知らんが文系ではさまざまな分野で考えがいのある質問だぞコレ。聴きたかったなあ! 先生(本日の動物先生は、旭山動物園 前園長 小菅 正夫先生)の第一声は、

「おじさんそんなこと考えたことない」

だったそうで。そのあと「人によってねこの声がどう聞こえるかは違うし、言語によってねこの鳴き声の表現は違う。ねこはとても耳がいい。ねこのほうでも、人間のことばをねこなりに聞き分けているのではないか」、しかしねこに実際どう聞こえているのかは、「誰にもわからない」。知ることが不可能なことについて憶測で答えたりしない姿勢、これ当たり前のことなんだけど、素晴らしい。ほんとうに。

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